バカの壁

- 著者:養老孟司
- 出版社:新潮社
- 出版日:2003
- ISBN:9784106100031
書評
「話せばわかる」は幻想。人は“理解したいこと”しか理解せず、常識や立場の違いが見えない壁になる。脳・身体・共同体の視点で、対立や分断の仕組みをほどく。壁の存在を知るだけで気が楽になり、議論より“共通の現実”を探す姿勢が身につく。現代の必読書。
『バカの壁』が突きつけるのは、「人は話せばわかる」という前提の脆さだ。相手が理解しないのは知能の問題ではなく、脳が“入力”として受け取らない領域があるからだという。知識と常識の差、共同体のルール、感情の係数、そして身体性――著者は多方面から“壁”の正体を描き、対立を道徳論ではなく構造として捉え直す。中でも「わかっている」という確信こそ危険、という指摘が効く。読んで痛いのは、壁は相手ではなく自分の内側にも立っている点だ。だから本書は「説得術」ではなく、まず自分の現実を点検するための本になる。さらに「個性を伸ばせ」という掛け声の裏にある強制了解や、無意識の働きにも触れ、善意が圧力に変わる瞬間を見抜く。短い章でテンポよく読め、読み終えると“わからなさ”を抱えたまま付き合う余裕が残る。職場や家族、SNSの分断に疲れた人ほど、壁を前提にした会話の設計(共有できる事実・できない価値観の線引き)ができて、少し楽になる。
