成瀬は天下を取りにいく(新潮文庫)
- 著者:宮島未奈
- 出版社:新潮社
- 出版日:2025/06/25
- ISBN:9784101061412
書評
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」——中2の成瀬あかりは、思いつきを“実行”で現実にしてしまう怪物級の主人公。閉店間際の西武大津店、M-1挑戦、坊主頭の入学式…突拍子もないのに筋が通る。読むほど元気がもらえる、圧巻の青春小説。
【全体像】
本書の面白さは、青春小説の王道(成長・友情・挑戦)を踏みながら、主人公が“常に一歩先の論理”で世界を動かしてしまうところにある。成瀬あかりは変わり者ではなく、観察し、決め、実行する人。その姿を、幼馴染の島崎みゆきの視点がちょうどよく現実側に引き戻し、物語の温度が整う。
【主人公の魅力】
成瀬は、周囲の空気に合わせて“可能な範囲で頑張る”のではなく、最初に目標を宣言し、次に手順を組み、最後にやり切る。だから突飛な行動もギャグで終わらず、「やると決めた人の強さ」として読める。しかも結果より過程が痛快で、読者はいつの間にか「次は何をする?」と期待している。
【舞台が効く】
閉店間近の西武大津店という舞台は、個人の挑戦と街の記憶が重なる場所として効いている。何かが終わるタイミングで、誰かが“自分のやり方”で走り出す。滋賀・大津のローカル感が、物語を等身大にしてくれるのも強みだ。
【読後に残るもの】
読み終えると、「自分も少しだけ実行に寄せてみよう」と背中を押される。夢を語る本ではなく、夢を“今日の行動”に落とす本。受賞作として話題になるのも納得の、爽快で骨太な青春小説だ。
